青夏ダイヤモンド
脩の家は私が電車に乗っている時間の半分ほどの駅で降り、歩いて10分くらいのところにある割と新しそうな一軒家だった。
鍵の音がして間も無くドアが開くと、玄関のすぐ前に階段と廊下が奥に繋がっていた。
人の気配の無い家は、沖田くんの言う通り家族が不在なことがわかる。
靴を脱ぎながら遠慮がちに「お邪魔しまーす」と家に上がる。
「沖田、先に部屋行ってて」
「オッケー」
脩は横のドアを開けてリビングらしきところに入って行き、私達は勝手知ったるように階段を上がる沖田くんに続いた。
階段を上がると、右側に2つと奥に1つドアがあり、沖田くんは奥の部屋に向かった。
右側の1つにはドアに「Misaki Room」と表示された木の板がぶら下がっていた。
脩の部屋は片付き過ぎているほどだったが、それがやたらと物が少ないせいでそうなっていることに気づく。
脩らしいと言えば脩らしい部屋だ。
本棚には参考書と野球関係の本、あと少しの歴史小説が入っていた。
その本棚横には無造作に1つだけ金メダルがぶら下がっていた。
「あ、それ、唯一取った大会メダル。小6の時にギリギリ最後優勝できたやつ」
メダルには第25回野球大会 優勝、と刻印されている。
私も持っていたはずだけど、野球を辞めた時に野球用品と共に何もかも封印した気がする。
多分私はこの大会に出ることなく、野球を辞めた。
「物色してるんじゃねぇだろうな」
お盆に飲み物を乗せた脩が睨みをきかせていた。
視線が私に向き、慌てて胸の前で手を振る。
「メダルすごいなーって見てただけ」
「別にすごかねぇよ」
「えー、俺は結構自慢なのに。だって、その時だけじゃん?俺らのチームが優勝するなんて。それまでは柏ノ木に負けてばっかだったし」
柏ノ木は私が所属していた野球チームで、懐かしい響きだけど、心がざわつく。
そうか。私は脩や沖田くんと小学生の時に出会っていたのだった。
こうして今一緒にいることは不思議だな、と改めて思う。
「文化祭の話するんだろ。早くやろうぜ」
強制的に話を切り上げた脩はテーブルの上にお盆を置いた。
「あ、俺の好きなやつー」
お盆からひょい、と個包装のお菓子を1つ手にすると早速口に放り込んだ。