青夏ダイヤモンド
今日担当するのは中学3年生で、初めての授業だった。
受験も間近とあって、どんな雰囲気なのか不安に思っていたものの、私と歳もほとんど変わらない男女が賑やかに挨拶をしながら塾にやって来た。
「あれ、都さん?」
聞きなれない呼び方に振り向くと、文化祭の時に会った翔馬くんが目を丸めて立っていた。
「新しい先生って都さんなんですか?」
「そうなの。よろしくお願いします」
頭を下げると、翔馬くんもつられたのか丁寧に頭を下げた。
また再会するとは思わなかったけど、翔馬くんと小学生時代に対戦していたのなら家自体が私と近所なのだろう。
無意識のうちに、翔馬くんの目元に目が向いてしまうが、伸びた前髪で傷の跡は見えなかった。
「俺も成南志望なんですよ」
「この辺りから成南行く人って珍しいよね?」
「ですねー。俺は少数派です。でも、この辺りだと1番野球に熱心に取り組んでるって聞いたんで」
「正直、すごい強いわけじゃないよ?」
「いいんです。強い弱いより、取り組み姿勢を重視してるんです」
あどけなさの残る顔だけど、快活に自分の意見を述べている彼は私よりも大人に感じた。
私が見る限り、彼は本当に野球へのトラウマなど持っていなさそうだった。
そうであれば良いに越した事はないのに、この焦燥感は何なのだろう。
私は何の為に、好きな物を諦めたというのだろう。