青夏ダイヤモンド
「さっきも言ったけど、岩佐都は俺らの憧れだったっつーか。可愛いのに、強くてかっこよかった」
前の名前をフルネームで呼ばれたのに、それはどこか別の人の話をしているかのように現実味がなかった。
そんな風に誰かが自分の事を思ってくれることなんてなかったから、酷く動揺している。
「顔は覚えてたから、高校入学して岩佐を見つけたって、脩が結構嬉しそうにしてて。でも、何話しかけたらいいかわからなくてズルズルいってたけど、電車の中で2人を見つけた時は驚いたなー」
脩が私の本を拾ったのは偶然だったかもしれないが、それは脩の意思がかなり働いていたということにもなるのかもしれない。
「岩佐都はもういないんだろうけど、さっきの球を見せられたら、脩が調子乗ったのもわかるよ」
廊下の奥から足音と話し声が近付いてくる。
どうやら体育の授業を終えたクラスメイト達が戻って来たようだった。
「あ、都ー。大丈夫?具合悪いって聞いたけど」
「え?」
充希が私の顔を覗き込み、体の様子を伺う。
「言ってただろ。吐くって走りながら」
Tシャツの襟元で仰ぎながら何事もなかったかのように脩が横を通って行く。
脩がそういう話にして、先生に伝えたのだろう。
「俺が言ったことは脩に秘密で。バレたら殺されるから」
小さく頷くと、沖田君も何事も無かったように男友達の中に戻って行った。
その後は他のクラスメイトもいたから、脩とは話す機会を逸してしまった。
ただ、自分で作ろうと思えば話すチャンスはあったから、都合良く解釈しただけだというのも自覚している。
昔の話と言えど、脩が憧れの対象として私を見ていたことに戸惑う気持ちが治らない。
今の私を見て、脩はどう思っただろうか。
きっと、酷くがっかりしただろうな。