御曹司とおためし新婚生活


「鳳さん、確か今日はクラルテのスチール撮影でスタジオにいますよね」


クラルテはゆずちゃんが担当で、鳳さんと一緒に仕事だと、数日前から彼女がソワソワしていた。


「私、鳳さんに何か知ってるか聞いてみます」

『待て、向日』

「ごめんなさい! 急ぎます!」


東雲部長が心配してくれているのは理解している。

でも、もしかしたら、話によってはいい方向に向かうのではという期待もあり、私は通話終了ボタンをタップすると、スタジオを目指して駆け出した。

スタジオは本社の三階にある。

ここは二階なので、エレベーターは使わず、階段を上がった。

廊下を進み、突き当りに構えている両開きの扉を押し開けたその奥。

撮影はもう終わったようで、ほぼ片付けの済んだスタジオの片隅では、肩に黒いカメラバッグをかけた鳳さんとゆずちゃんが談話しているのが見えた。

二人も今からスタジオを出ようとしていたのだろう。

こちらに踵を返したところで、ゆずちゃんが私に気付き長いまつ毛を瞬かせた。


「あら、亜湖。あんた打ち合わせはもう終わったの?」

「うん。ごめんね、ゆずちゃん。ちょっと鳳さんに話があって」


笑みを浮かべない私の様子にゆずちゃんが顔を顰める。


「何かあったの?」


その問いに答えたのは、私ではなく余裕綽々といった様子の鳳さんだ。


「俺が少し、賭けをね」


意味ありげな笑みを口元に乗せた彼に、間違いなく、何の用件か知っているのだと確信した。


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