曖昧なポジション
「お、来た来た」
タイミングよく現れた黒いタクシーを止めるために、水沢は片手を挙げた。
「先、俺の家からな」
水沢の家より私の家の方が近いよ、そんな反論をする間もなく水沢は運転手に行き先を告げた。
きっとタクシー代は水沢が払うと言って譲らないだろうから、仕方ないよね。
後部座席に座る私たちは運転手の目には恋人として映っているのだろうか。そんな事実とは異なる期待を抱いているこの頭は、やっぱりどこかおかしい。
水沢のせいで頭のネジを、何本か落としてしまったのかもしれない。
「ん、眠い」
肩に重みを感じたと思ったら、水沢のさらさらとした髪が私の頬に触れた。
「ちょ……」
「いいだろ、疲れたんだから肩くらい貸せ」
肩に頭をのせられて縮まった距離に顔を赤らめるが、目をつぶっている水沢の視界には入らないだろうと安堵する。
「着いたら起こして」
「うん」
「おやすみ」
「……お、やすみ」
タクシーの中で甘い試練を与えられた。