曖昧なポジション

「もう勝手にして。私、帰るから」


腕を振り払い、
歩く速度を速める。



裏通りは人の姿もなく、スムーズに道を進む。



「もし俺に彼女がいたら、お前は諦めるんだ」




悔しい。



私が早歩きをしたところで、足の長い水沢に簡単に追い付かれた。




「諦めるしかないじゃん」



「なんで?」



「人の幸せを壊すの、嫌だから」



私のせいで誰かが傷つくなら、なにもしない方がいい。



「偽善者、だな」



冷たい声が響いた。



大人として間違っていない返答をしたのに、偽善者扱いされるとは思ってもいなかった。



「俺だったら嫌われること覚悟で奪うよ」



「嫌われたら意味ないじゃん」



「それでも欲しい物は欲しいし、我慢できない」



「ワガママ」



欲しい、そう叫べなくなったのはいつからだろう。



我慢することで平穏を保ってきた私は偽善者ではなく、ただ傷付きたくなくて逃げているだけだ。


どうしようもなく弱虫なんだ。




「ナツミ」



隣りを歩く水沢は再び私の腕を掴み、強い力で引っ張った。



「ちょ……」



されるがままに水沢のーー胸の中に倒れ込んだ。


< 29 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop