曖昧なポジション
「もう勝手にして。私、帰るから」
腕を振り払い、
歩く速度を速める。
裏通りは人の姿もなく、スムーズに道を進む。
「もし俺に彼女がいたら、お前は諦めるんだ」
悔しい。
私が早歩きをしたところで、足の長い水沢に簡単に追い付かれた。
「諦めるしかないじゃん」
「なんで?」
「人の幸せを壊すの、嫌だから」
私のせいで誰かが傷つくなら、なにもしない方がいい。
「偽善者、だな」
冷たい声が響いた。
大人として間違っていない返答をしたのに、偽善者扱いされるとは思ってもいなかった。
「俺だったら嫌われること覚悟で奪うよ」
「嫌われたら意味ないじゃん」
「それでも欲しい物は欲しいし、我慢できない」
「ワガママ」
欲しい、そう叫べなくなったのはいつからだろう。
我慢することで平穏を保ってきた私は偽善者ではなく、ただ傷付きたくなくて逃げているだけだ。
どうしようもなく弱虫なんだ。
「ナツミ」
隣りを歩く水沢は再び私の腕を掴み、強い力で引っ張った。
「ちょ……」
されるがままに水沢のーー胸の中に倒れ込んだ。