大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「そりゃー朝比奈が思わねーわけだわ、枢木ちゃんが自分のこと好きだって」
ゆるい表情に、はっきりとした苦笑いを浮かべている。
そんなことを言われるなんて思わなくて、思わず、「えっ、」と驚いて声が出てしまった。
そんな私に、のんきに水嶋くんはティラミスの最後の一口を食べ終えて、それから再び口を開く。
「だって、おにーさんと付き合ってたんだよね?」
「…うん」
「おにーさんのことが好きな枢木ちゃんをずっと朝比奈は見てたわけじゃん?で、付き合って、思春期真っ只中のそのおにーさんと枢木ちゃんは、ところかまわずイチャイチャしてたんだよねー」
「……ところかまわずではないよ」
「じゃあ、なんもしてねーの?」
「………、」
「そーいうのってばれるからなー、気づくんだよ、男はさー、色々。うわっ、考えただけで地獄じゃん、そのシチュエーション、兄弟だろ、しかも部屋は違えど同じ屋根の下にいたときもあったわけじゃん。そんで、まー、そういうのだけじゃないけど、そのおにーさんと枢木ちゃんが別れて、朝比奈に慰めてもらってー、で、今度は朝比奈が好きってあんたは言ったわけでしょ」
「…うん、」
「枢木ちゃんがどう思っていようが、いつ朝比奈のこと好きになっていよーが、おにーさんとの過去とかずっと見てきてる朝比奈にしてみれば、そんな、虫のいい話あるかよって話じゃん、それ。ばかにすんなって思ってるかもねー」
ゆるい口調ではあるものの、水嶋くんの言葉にからかうような要素はどこにもなくて。
さっきの店員さんへの対応もそうだけど、もしかしたらこの人は、ゆるさの裏で、常識をちゃんと持ち合わせていて、ゆるくはない真っ直ぐな正論を伝えてくる人なのかもしれない、と思ったら、言われたことに今傷ついてはいるものの、相談して良かったって思えている自分がいる。