大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】






「千尋、うさぎ苦手なの?」

「…別に。得意じゃないだけ。俺のことはいーからお前は気にせずもふもふしてればいいよ」

「ふふ、もふもふって」


六歳からの付き合いなのに、千尋がうさぎに触れるのがあんまり得意じゃないことは、はじめて知った。




昔、まだ私たちが小学生だった頃、朝比奈家と枢木家で一緒に動物園に行ったことがあるけれど、そのときの私は千歳くんに夢中で、千歳くんとふたりで動物がみたくて、正直千尋を鬱陶しく感じていた。


我ながら,正直で結構最低な女の子だったと思う。


途中から、千尋は私の気持ちをきっと察して、私と千歳くんの少し後ろをとぼとぼついてくるだけだった。

そんな千尋に対して、彼がいるのを嫌がったのは自分のくせに、少しだけ気がかりになってしまって。

帰り道に機嫌をとるように声をかけたんだ。
そうしたら千尋は、「あんまり、動物園楽しくなかった」って難しい顔で言ってきたから、それからはもう、千尋の中で動物園はそういうイメージなんだってずっと思ってた。



結局、千歳くんや千尋と動物園に行ったのはそれっきりだったから、当時千歳くんにしか興味のなかったこともあり、千尋が何の動物が好きで、何が苦手かなんて、ひとつも知らないままで。



「虹は、白いウサギより茶色のウサギのほうが好き」

「……うん、」

「千歳くんが、うさぎが共食いすること言ったら、昔の虹泣きそうな顔してたよな。小学生の頃の虹ってすごい泣き虫だったから、俺、こいつ動物園でも泣くのかよってうんざりしたもん」

「…よく覚えてるね、千尋」

「記憶力いいから」



私は、動物園で千尋が何を見て楽しんだのかどんな顔をしていたのかほとんど覚えていないのに、千尋は、当時の私のことを覚えている。
すごく、覚えている。


私も覚えていたかった。
そう思うときがくるなんて、当時の私はひとつも信じてくれないだろう。




なつかしそうに、少しだけ寂しそうに千尋が笑って、お腹にかかえていたウサギを逃がした。




< 364 / 433 >

この作品をシェア

pagetop