大好きなキミのこと、ぜんぶ知りたい【完】
「次、なにみる?」
千尋がゴミを捨てに行ってくれて、私が座るベンチまで戻ってくる。
早めにお昼を食べたから、今ちょうど真昼くらいだ。
立ち上がって、ワンピースの後ろを整える。
それから、風に吹かれて少し乱れてしまったポニーテールをちょっとだけ引き締めた。
「カバがみたい」
「カバ?」
「うん」
「はは、いいよ、見に行こ」
たぶん、変なセンスって思ってるんだろう。
そういう顔をしている。
からかうような表情。
カバに失礼だ、千尋は。
のんびりした動きとか、口の中とか見るのが楽しいし、耳なんかも可愛いのに。
小さい頃は好きじゃない、なんて言っていたけど、最近、スマホでカバの動画を見て、はまったんだ。
だから、千尋も私がカバを気に入ってることは知らないと思う。
千尋は入り口でもらったパンフレットの地図をながめて、きょろきょろと周りを見渡した。
そんな千尋を見上げながら、ぎゅっと一度手のひらを握って、息を吐いて、決心を固める。
今なら、たぶん、頑張れる。
大丈夫。
大丈夫、だから。
なんて、自分を精一杯励ましながら、千尋、と今にも震えてしまいそうな声で名前を呼んだら、千尋はパンフレットから顔をあげて、ん?と首をかしげた。
私は千尋を見上げたまま、ふう、ともう息をすって、もう一度吐く。
それから、ゆっくりと口を開いた。