社長はシングルファーザー
翌日ー

いつものように仕事をして、お昼を迎えた。

食堂でいつも寂しくお昼を食べる私の前に

「ここいいかな?」と現れる社長。

「もちろんですよ」と私が言うと、

「俺もいいっすか?センパイ」と言って社長側にトレイを置く要君。

要君は私の2つ下、21歳。

社長はと言うと、いつも手作りのお弁当を持参している。

私たちは他愛なく会話をする。

そして、要君は相談があるので時間をつくってほしいと私に言ってきた。

「後で秘書室に来てほしい」と言って。

「わかりました」と私は返した。

食事を終えた私は秘書室に向かった。

コンコン「失礼しまーす」と言って私は中に入った。

「俺と社長の関係聞いてしまったんですよね?」と要君は言う。

「まあ、心配しないで。言わないわ。知ってると思うけど、社内でも私は浮いてるのよ?他人と関係をあんまり持たないから」と私が言うと、

「まあ、気づいてましたけど。あ、良ければこれから俺らは仲良くしませんか?実はずっと気になってて色々お話してみたかったんですよね」と要君は言う。

もちろんよ。と私は握手した。そして

「で、本題入ったら?」と私は言う。

「あ?ばれました?」と要君。

「気づかないわけないでしょう?あんな内容ならここじゃなくても良いわ。ここに呼ばれたってことはそれなりの仕事でしょう?」と私が言うと、目を反らす要君。

正直で分かりやすい子だわ。仲良くやれそう。

要君は私に資料を渡した。

「大切なクライアントです。この方だけはなんとしても契約を取らないといけないと言うくらいに。そして、その方に渡した資料のコピーですが…」と要君は一呼吸置いた。

中をパラパラめくると、めまいがしそうなほど難しい文字が並べられ、何枚にも渡っていた。

この時、これが転機になることを私はまだ知らないのだけど。

「こんな資料出して相手は理解出来たの?」と私は聞いた。

「無理に決まってますよ。俺にも難しくてわからなかった。そこで、獅童さんに手直しお願いしたいんです。向こうからもっと単的に分かりやすくとお願いされました」と要君は言う。

ああ、なるほど、そういうことなのね。

って?!えぇー?!

私が手直し?!

「もしかして相手のご指名ですか?」と私が聞くと。

「違います。社長のご指名です。実は…」と要君が話してくれたのは。

私が提出した資料はほとんど一発で社長がOKを出す。だから手直しさせるなら私にお願いしたいとのこと。

嬉しい限りだった。

が、そのクライアントを知って私は言葉を失った。

「実はそのクライアントはACEの社長、篠井和人(シノイカズト)さんなんです」と要君に言われた。


…シノイカズト…

社長の友人よね?確か。

私の知り合いでもあるんだけど。

「…カズトなの?それじゃあの資料突っ返されて当然ね!」と私は口を滑らせて言ってしまった。

「お知り合いですか?社長のご友人でもあるので大切にされているみたいなのですが」と要君は言った。

なんて言っていいか、正直わからない。

知り合いというか…カズトは私の元カレ…。

年上の彼をカズトと呼び捨てしていたのに彼は何も言わなかったわ。

カズトは長きに渡り、暴走族をし、総長まで上り詰めた男…私は姫として大事にしてもらっていた。姫になる前から彼女だった私は族内にも知り合いが多くて、特に大事に扱われていた。

そんな彼の会社がACE。

うちの社長とカズトが友人だと知ったのはこの会社に入ってからだった。

「ねえ、要君は私のことセンパイって呼んでみたり、獅童さんって言ってみたり…統一する気は無いの?」と私は言ってしまった。

「もちろん、俺だってセンパイって呼びたいですよ!その方が親近感沸きません?けど、仕事の話するのに、それは失礼かな?って」と要君は言った。

「そうかしら?いいんじゃない?好きな呼び方で。けど、ややこしいのは嫌いだから色々呼んでみるんじゃなくて統一してほしいだけなの」と私が言うと、

「じゃあ、飛鳥さんでもいいですか?」と要君は言ってきた。

「もちろん、構わないけど、いきなり変えてきたわね?センパイでも名字でもなく名前?」と私が言うと、顔を赤くしてうつむいてしまった。

ほんとに可愛いんだから。

「でわ、飛鳥さん、よろしくお願いいたします。できれば明日までに…」と要君は言った。

って?えぇ?今日今から言って今日中に?鬼ね。残業決定じゃないのよ!

まあ、仕方ないし、やるけども。

私は何とか時間内に自分の仕事を終え、例の案件に取りかかる。

一気合い入れ、椅子に座り直した。

そこで目にとまったのはソワソワしている後輩の女性。

時計ばっかり気にして集中出来て無さそうに見えた。

私は立ちあがり、その人のところに行く。

まだ少し残っていたメンバーはそれを見て、凍りついてるように見えた。

「何時まで?合コンかデートでしょ?」と私が言うと、目を合わせず頷かれた。

「で、ほら?時間…」と私は催促するように時間を問う。

「6時半デス」と言われた。

なるほどー後10分足らずしか無いわけね。

それでソワソワしているのね。

「…仕上げとくから行きなさい。お疲れ様!」と私は言って、彼女を見送った。

それを見ていた数名の人らは

『えっ?あの獅童が?!』なんて目で見ている。

あくまでついでだ。残業するのだから少しくらい手伝ってもいいと思った。

けど、この反応を見ると、私は相当性悪に見られているらしい。

私は改めて座り直すと、キーボードを叩いた。

夢中でしていた為、気づいたら誰もいなかった。

そして今日もコーヒーを置いてくれた。

見上げると要君で。

「どうですか?順調ですか?」と言って隣の席に座り、自分のコーヒーを飲んでいる。

「まぁまぁかな。とりあえず、内容の把握からだから大変だったけどね。後はもう入力だけだから大丈夫よ」と私が言うと、

「そうですか。鬼みたいなこと言ってすいません」と要君は謝ってくれた。

「いいのよ。たまには残業も悪くないわ」と私は笑った。

「あの、良かったら一緒にご飯でも食べに行きませんか?奢ります」と要君に言われて

「やったーじゃあ早く済ませなくちゃね!」と私は言って画面と資料を交互に見て、打ち込んだ。

慣れたもので、打ち込みくらいならかなりのスピードで打ち込めるようになったため、すぐに終わらせることが出来た。

そして、私たちは会社を後にした。

要君が連れてきてくれたのは、コジャレたバーだった。

ん?ここで食事?!と思ったがメニューを渡されて…

メニューにはサイドを含めるとかなりのフードメニューが。

もちろんお酒も種類は多い。洋酒、日本酒、ワイン、カクテル、酎ハイ何でも揃っていた。

「ここ、行き付けなんです」と要君は言った。

私は納得した。

「お好きなもの頼んでくださいね」と笑ってくれたのでお言葉甘えた。
< 4 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop