妖精の涙【完】
そんな彼の髪やコートから垂れた雨がポタポタと床に水溜まりを作る。
「おい…先にのんきに美味そうなもん食ってんじゃねえか」
「ギーヴ!よく絞ってから入りなさいよ、迷惑でしょ?」
「いえお気になさらず。奥をどうぞお使いください」
「ありがとな、マスター」
マスターの言葉にスタスタと奥に歩いて行ったギーヴに違和感を覚えた。
「ギーヴさんは以前もこちらを利用したことがあるんですか?」
普通ならあんなに遠慮なくお店の奥に行けるわけがない。
「はい。お父様に連れられて何度か」
「それならそうと言えばいいのに…まあ、あたしたち2人を置いていけるような場所なんだ、とは思ったけど」
確かに。
言われてみればそこからおかしかった。
「随分とご立派になられましたね」
「そうか?」
「はい、それはもう」
程なくして戻ってきたギーヴは水も滴るなんとやらで、全然水気がなくなっておらずリリアナが怒ったものの完全に無視していた。
「ここもしばらくぶりだな。全然変わってねえし」
「はい。今日はいかがいたします?」
「…とか言いながらもう出てんじゃねえか」
「ホットミルク、お好きでしょう」
リリアナが隣でプッと笑った。
「あなたがホットミルク?似合わないわねー」
「馬鹿にすんな。ここのが1番なんだぞ」
「彼の、いつもの、でございます」
「マスター…余計なことは言わなくていいって」
彼は勘弁してくれ、と頭を抱えていた。
でも気になる。
1番のホットミルク。
「なんだ?飲みたいのか」
奥からリリアナ、ティエナ、ギーヴの順で座っているためティエナの動きは彼には丸わかりだった。
いけない、ガン見しすぎた。
「あ、その…ホットミルク、飲んだことがなくて」
「なら飲んでみな。美味いから」
「いいんですか?」
「おう。ほら」
目の前に置かれた湯気が立ち上る白い液体を見下ろし1口飲むと口の中にほのかな甘みと濃厚なまろやかさが広がった。
すごい…
こんな牛乳初めてだ。
「だろ?美味いよな」
「はい…」
と、余韻に浸っていると何食わぬ顔でギーヴもそのカップを手に取りホットミルクを飲んだ。