愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
「き、桐島さん……?」


手がぬかまみれなので、顎にかかる彼の指を外すことをためらった。

「泣いてはいないな……」と独り言のように呟いた彼に、高鳴る鼓動は少し速度を落として、私は目を瞬かせる。


潤む程度にも涙は滲んでいないし、桐島さんの前では笑顔でいたというのに、なぜそう思ったのか……。


私の顎から手を離した彼は、心配を解いたように表情を和らげ、少し笑った。


「エマを連れてきたことが、君の迷惑になっているのではと思ったんだ。無理をして会話しているように感じて」


「そ、そんなことはないです!」と私は慌てて否定する。


「エマさんは私の料理も紫陽花荘も褒めてくれました。とても楽しいです。変に見えたのは、まだ少し緊張しているからだと思います!」


彼の気づきをごまかそうと、私らしくなく語気を強めて主張したら、桐島さんが「わかったよ」と宥めるように私の頭を撫でる。

それから立ち上がり、「十五分ほどで戻るけど、その間、エマを頼みます」と廊下に向けて歩きだした。

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