愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
今日は土曜日なので、帰国してすぐに紫陽花荘に帰るものだと思っていたが、彼は一度会社に寄ったようだ。

帰宅時間は十六時頃と言われているから、二時間ほど会社で仕事をするつもりなのかもしれない。


桐島さんは、私がいることに気づいていないのか、背を向けて店舗マネージャーとなにかを話している。

書類のようなものも手渡していた。


私が驚いたようにレジカウンターに注目したため、亜美ちゃんもそちらを気にしている。

そして、「あの人が、有紀の会社の社長なの?」と声を落とさずに問いかけてくるから、私は慌てた。

「う、うん。そうだけど、亜美ちゃん、なるべく小声で……」と注意を与えたが、「あそこまでは聞こえないよ」と声のボリュームを下げてくれない。

「後ろ姿だけで、いい男オーラが出てるよね。外国の人? 若くてかっこいいのは、ずるい」と桐島さんを評価して、自分の勤め先の社長は、六十過ぎの太ったおじさんだと、彼女は笑った。


冗談めかした言い方をされても、ハラハラしている私は、同調して笑うことができない。

私と彼を隔てているものは、腰ほどの高さの商品陳列台と、喫茶スペースとの間仕切りの役割を果たしている細長い観葉植物のプランター。それと隣のテーブルのみ。

距離は六、七メートルほどだろうか。

桐島さんが振り向いたら目が合ってしまいそうで、慌ててメニュー表で顔を隠して、気づかれまいと縮こまった。

この場所で、『ただいま』『お帰りなさい』という親しげな会話を交わすわけにいかないからだ。

< 190 / 258 >

この作品をシェア

pagetop