愛育同居~エリート社長は年下妻を独占欲で染め上げたい~
私がキョトンとしているのは、なんの犯人を捜すのだろうと思っているからである。

それを尋ねれば、彼がおもむろに立ち上がり、私と視線を合わせて苦笑する。


「もしかして、自分の不注意でデータが消えたと思っていたの? USBメモリまでもがなくたっていたというのに?」

「あ……」


桐島さんの言った“犯人”がなにを指すのかを、やっと理解していた。

けれども、自分のミスでデータを消してしまったと思っていたわけではなく、なにが起きたのかわからなかったというのが正解である。

誰かの仕業だと考えることもできないほどパニックに陥り、ただ初めからやり直さなくてはと必死で、他のことに気を回している余裕がなかったのだ。


「誰が……」


私以外のこの部署の社員で、最後に帰っていったのは本橋さんであった。

ひとりきりだと思っていたこの部屋の中に誰かが潜んでいて、私がお手洗いに席を外した隙に、データを消去したのだろうか?

それとも、他部署の人が?


自分の体を抱きしめたのは、怖くなったためだ。

親切で優しいと思っていた先輩社員や上司の中に、その笑顔とは真逆の感情を抱えた人がいたのかもしれないと考えて。

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