残念系お嬢様の日常
「ぶぼ……っ」
息止めるの限界。
ぐらりと頭が後ろへと倒れかけた時だった。私の腕を誰かが掴み、勢い良く引っぱり上げた。
温かな誰かの体温に縋りつくように私は無意識に抱きつく。
「っおい!!」
必死に肺が酸素を求め、浅い呼吸を何度も繰り返す。
肺が押しつぶされそうなほど苦しくて、鼻の奥がツンと痛くなる。生理的な涙がじわりと滲んだ。
怖かった。本当にまたあの恐怖を味わうのかと思うと、身体が震えてうまく動けなかった。
「お前、何してんだよ!!足つくだろ!」
少し痛む目を強引に開くと、しかめっ面をした彼がプールの中で私を抱きかかえてくれていた。
「き、りゅう……さま」
彼らの中で一番意外な人が助けに来てくれたことに心底驚いた。
あの中で私のことを一番苦手に思っていそうな男、桐生が水の中に飛び込んできてくれるなんて。
水に濡れて髪の毛がぺちゃんこになっていて、普段よりも少し幼く見える。