残念系お嬢様の日常
ここに来るまでの間に生徒たちが
「本当の姉弟じゃないのに一緒に暮らすってすごいわね」
とか妙な含みを持たせて話しているのも聞こえていた。
そういうことを考える人もいる。
だからこそ、姉さんの立場がどうなってしまうのか怖い。
姉さんの大事な友人である水谷川さんたちは変わってしまわないだろうか。
「……前にあなたに助けていただきました。本当ならこういうときスミレもお返しができたらいいのですけど、なにをしたらいいのかわかりません」
水谷川さんを助けたって……ああ、あれかな。
綾小路さんたちに絡まれて困っていそうだったから、姉さんが呼んでるって嘘ついて引き離したときくらいしか思い当たらない。
「きっと今まで人との関係を……コミュニケーションを怠ってきたから、大事な友人である真莉亜やあなたが苦しいときにかけるべき言葉がわからないんだわ。……それがすごく歯痒い」
「ありがとう。その気持ちだけで十分だよ」
姉さんのことだけでなく、俺のことまで心配してくれていることに少し驚いた。
こんな風に思ってくれる人もいるんだな。
嫌な視線ばかり浴びすぎたせいか、水谷川さんの反応は新鮮に感じる。
「俺たちはさ、血は繋がっているんだ。だけど、本当の姉弟ではない」
「それでもあなたたたちは姉と弟でしょう?」
当然のように水谷川さんは言ってきた。
予想外の返答に面食らってしまう。
水谷川さんは噂をしている人たちみたいに態度を変えたりしない。
そもそも血の繋がりとか親とか関係なく、姉弟であることに変わりないと思っているようだった。