残念系お嬢様の日常
「雲類鷲さん」
その声で顔を上げなくても誰かわかった。
なんでもないような表情で顔を上げて本を抱えている彼女に向かって微笑む。
「どうしたの? 浅海くん」
「……大丈夫ですか?」
俯いていたからか、心配されているようだ。
浅海さんに「大丈夫よ」と返すと、どこか寂しそうな表情で浅海さんが眉を下げる。
「ふたり以外に誰もいないので、壁だと思ってなんでも話してください」
「か、壁……」
「口外しません」
ぐっと指先に力をいれて、携帯電話を握り締める。
口に出したら、消すことを躊躇ってしまっていた理由が見つかるだろうか。
「消したいのに、消せないの」