極上恋慕~エリート専務はケダモノでした
環がハイボールのグラスを揺らし、ひと口飲んで、カウンターに置く。
少し離れた席からは、ミミがお気に入りの客と楽しそうにしている声が聞こえてきた。
今夜は、みんな楽しく過ごす日。数日前に用意したプレゼントを持ち寄ったり、仲間とお酒を飲みかわしたり、恋人と仲を深めたり……。
それなのに、自分は、なにもない。
裏切られて、楽しむ気も失せて――。
「無理に楽しくしようとしなくてもいいですよ」
「……え?」
「女の子がひとりで今夜を過ごすには、それなりに理由があるだろうから」
「な、永縞さんこそ」
「俺は、れっきとした失恋。万佑ちゃんは?」
彼は、まるで以前から知り合いだったような雰囲気さえ醸してくる。
居酒屋で知り合った相手とは、このくらいの距離感じゃないと楽しく飲めないのかもしれないが、今日の万佑にとって環の懐こい性格は戸惑いの種だ。
初対面の彼に、ふと愚痴りたくなる。
失恋した者同士なら、打ち明けられそうな気さえしてしまう。
ミミ以外の誰にも話したくない、汚点のような恋なのに。