極上恋慕~エリート専務はケダモノでした

 先にミミと会計を済ませていたサラリーマンたちも帰っていった。
 しんと静まりかえったに店内は、不自然なほどに静かだ。


「静かだな」

 環が席をひとつ置いて、座り直した。

(永縞さん、お酒強いんだな……。全然酔ってない)

 今度は目が合わないように、そっと環の様子を探る。
 作ったばかりのハイボールは、何杯目なのだろう。ペースを落とさずに淡々と飲んでいる彼は、静けさに耳を澄ませているようだ。

 何時になったのかと、万佑はスマホをバッグから出す。


(まだイブか……)

 23時過ぎの表示を見て、心がぐったりした。
 こんなに飲んでも、愚痴っても、泣いても、今日が終わってくれない。
 最低な夜は、早く過去にしたいのに。


「……雪、降ってきたみたいだね」

 環に言われて、入口に視線を投げれば、いつの間にか降りだした雪が、ガラスの向こうでちらちらと舞っているのが見えた。

< 29 / 276 >

この作品をシェア

pagetop