極上恋慕~エリート専務はケダモノでした
「里子は、出会ったばかりの人とキスしたことある?」
「……それ、ナンパでしょ? キスどころかついて行ったこともないよ。万佑だってそうでしょ?」
「うん、まぁそうだけど」
「だけど、なに?」
「あっ、うん……。イブに行きつけの居酒屋で知り合った人がいて」
あの夜は、なにもなかった。
キスを予感させられただけだ。今となっては、なにもなくてよかったと思う。
でも、もしキスしていたら……?
今頃どんな気持ちで過ごしていたんだろう。
「まさか、万佑!?」
「ちっ、違うよ! キスなんてしてない!!」
慌てて否定するけれど、この2週間ほどの間、環のことを考えてしまうようになったのは事実だった。
整った容姿に、人懐こそうな笑顔が頭から離れなくなっていた。それは、きっと愚痴を聞いてくれた優しさに触れたからだと思う。
それ以外に、環のことを気にかける理由がないのだ。
時間になり、ふたりはそれぞれ自分の席へ戻った。