初恋の君と、最後の恋を。
サラリーマンに押されるようにして満員電車に乗り込む。
今朝は車両点検で遅れが出ていて、いつも以上に車内は込み合っていた。
生温い車内で先輩の隣りに立つ。
でも大丈夫、今日はつり革に掴まれている。
「大丈夫?」
「はい」
いつも通り器用に小説を読む黒瀬先輩の隣りでイヤホンをつける。
両耳にイヤホンをつけると車内アナウンスが聞こえなくなるため、いつも聞き耳だけにしているのだけれど、
「なに聞いてるの」
黒瀬先輩は空いているイヤホンに手を伸ばしてきた。
彼の長い指がイヤホンに絡み、自身の耳に当てる。
「リスニングね。試験対策?」
「まぁ、そんなところです」
イヤホンの線が届く距離。
つまり迫った顔に鼓動が早くなる。
「少し聴いてても良い?」
「もちろんです」
ひとつのイヤホンを2人で使うなんて、
恋人同士みたいだと密かに思った。
先輩となら、例え満員電車であっても幸せな気持ちになれるのか。
恋って凄いよね。
右耳から聞こえる英単語が、左耳に流れていく。
少しも頭に残らなかった。