伝説に散った龍Ⅰ
「ねえ」
「…円堂さん」
「なにしてんの?」
自分でも驚くほど低い声が出た。
「何って、見てわかんない?」
「…」
「ちょーっと伊織ちゃんは調子に乗りすぎだよね。戒めてあげなくちゃ」
咲良の甲高い笑い声が、私の脳内を反芻する。
「だって気付いてないんだもん、この子。自分がどれだけ私に不快な思いをさせてるか」
「…」
「だからその身をもって教えてあげるの。え?私優しくない?」
「…うん、優しいね」
「でしょ?話わかるね芹那ちゃん」
───咲良の頬に、私の拳は深くめり込む。
強い憎悪を連れ立って。
出口のない暗闇に
彼女の魂ごと堕ちていく。
「自分の罪を、まさか自分から自白してくれるなんて」
「っ、は、あ、っが」
「優しい子。慈悲深い子。」
その顔がみるみる歪んでいく。
はじめの一発以降、顔には手をつけなかった。
苦痛に歪む、それでいて小綺麗に化けた顔を見ようと思って。
私の思惑通りに歪んだその顔を眺めて
心中、赤黒い怒りで満たされる。