伝説に散った龍Ⅰ
「出来もしない無理して。ほんとバカ」
守りたいと思うのは私だけじゃない。
彼女の、高慢で潔白な正義が
周りの人間を駆り立てるのだ。
あの情けない龍たちもきっと
彼女に魅せられているのだ。
これはもう。
納得するしかないなと小さく笑う。
「バカ伊織」
「芹那、ちゃん」
「なんで一人で行っちゃうのよ」
どうして私を、頼らないのよ。
「…、ごめん……っ」
「戦闘能力2のくせに」
「うんっ…」
「私にとって伊織は貴重品なの。失くせないの、絶対」
「…うんっ」
「分かって、伊織」
「…うん、うん…っ」
「私だって伊織を守りたい」
──“ありがとう”って言ってよ。伊織。
色素の薄い軽やかな眼から
とめどなく落ちてくる清い雫。
美しい。
私を思って泣く彼女はこんなにも美しい。
「──ありがとう…っ」