ちゃんと伝えられたら
「いいや、やっぱり俺が悪いんだ。初めから三島常務の話をきちんと断っていたら…。」

綾人さんは私の頬をその温かな大きな手で撫でる。

「ううん、そんな時に断れない事は私も良く分かっているつもりですから。」

大人の事情、ましては仕事をもらっている取引会社の常務からの申し出なら無下にそれは断れないに決まっている。

私だってずっと気持ちは決まっていたのに、寺本さんにお断りできずにいた。

「この問題は俺が直接三島常務に掛け合う。志保、それでいいな。」

「でも…。」

もしかしたら、それは綾人さんの将来を左右してしまうかもしれない。

「俺が無職になっても、そばに居てくれるか?」

綾人さんは心配そうに私の顔を覗き込む。

「会社はここだけではない。だが俺には志保じゃなきゃダメなんだ。二人で居れば何とかなるだろう。だから…。」

私を抱きしめて囁く綾人さんの息が熱い。

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