ちゃんと伝えられたら
運転中の坂口さんは当然正面を見据えたまま話をしている。

そして一瞬だが坂口さんはこっちを伺うと、話を続ける。

「あの大雨の中に所在なくうろうろ歩いている篠田の姿があった。まさかと思った。」

私はその光景を思い出して、言葉を挟む。

「恥ずかしいですからその話は…。」

でも坂口さんは話を止めなかった。

「その時に分かったんだ。それまでも仕事中に篠田の様子を見て、ついきつい事を言ってしまう理由が…。」

赤信号で車が止まった。

坂口さんはハンドルに自分の身体を預けると、大きな溜息をついた。

「篠田を放っておけないんだ。あの日ついに篠田に触れてしまった…。」

私は坂口さんの胸に包まれた事を思い出す。

あの時はとても温かくて…。

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