教育係の私が後輩から…

どうしたのか、今日はやたらと足が重たい気がする。通い慣れた道だが、家がとても遠く感じる。

「はぁ…ご飯作るのめんどいなぁ…」

溜息をついてると、行きつけの店の前に停まる黒塗りの高級車に足を止め、久しぶりに引き戸を開ける。

「らっしゃい!あっヒロちゃん、体もう良いのかい?」

「あっその節は有難うございました。美味しかったです。」

「なーに?しけた顔してるわね?」

「………」

「ヒロちゃん、ビール?焼酎?」
店主の問い掛けに、私は首を振った。

「今日は止めとく…」

「あんたがお酒飲まないなんて嵐でも来るのかしら?」

「そうかも…」

「もうナニ!?酒が不味くなる!
ウジウジしてないで、言いたい事が有るなら、さっさと言いなさいよ?私に何か話したくて来たんじゃないの?」

そうだけど…

「どうしよう…
キクさんの誠一郎(大事なお孫さん)からプロポーズされた…。
私どうしたらいい?」

「あら誠一郎もなかなか見る目あるじゃない? ウフフ 
ヒロさんが誠一郎の嫁ねぇ?
楽しそうじゃない?」

「キクさん…楽しんでないでよ…
私、マジで困ってるんだから…」

どうしたものかと頭を抱える私に、

「私はウエルカムよ?
だからヒロさんの好きにしなさいな?」

キクさんは楽しそうに言う。

「好きにしなさいな?って… 
キクさん、あまりにも無責任でしょ?」

何がウエルカムだ!?
私が嫁になんかなったら、あんたの可愛い誠一郎を…

「ヒロさんは誠一郎の事嫌いなの?」

「………」

「最初の印象は凄く酷くて…
ただのボンボンかと思ったら、仕事は出来て、
やっぱりキクさんの自慢だけあるなぁって思った。

冷たい人かと思うと、ときおり見せる優しい顔…
ほんと不思議な人だと思って、最近は興味湧いて来たのも事実。」

「じゃ好きなんだ?」

「えっ?」

「興味が湧くって事は、好きだからでしょ?
じゃ、素直にプロポーズ受けたら?」

「そんな事出来る訳ないでしょ!?」

「どうして?」

「住んでる世界が違う…」

「誰から見た?」

「そんなの普通の一般論よ!?」

「普通…?一般論…ね?
私から言わせれば、一般論なんて糞よ!!」

「そんな上品な格好して、糞なんてよく言うよ?」

「本当の事じゃない?
他人(ひと)に迷惑さえかけなきゃ良いのよ?
後は自分に嘘ついて、後悔さえしなければ、他人がなに言おうと、何してもいいと私は思うわよ?
自分の人生でしょ?」

「うん。私もそう思う。
そう思うから…ダメなんだよ…」

「ヒロさん…もしかして…」

「やっぱり帰るわ…?
タマちゃんごめん。また来るね?」




< 78 / 135 >

この作品をシェア

pagetop