教育係の私が後輩から…

誠一郎から、もう直ぐ東京駅に着くと、連絡があった。

「お疲れ様。」

「今夜なに食べたい? 買い物して行くわ?」

「あっ…鍋の用意してあるから…」

多分東京駅から直接、こっちに来ると思ってたから、私は食事の用意をしていた。
鍋なら私でも用意出来ると、思ったからだ。

「宣美が作ったの?」

「作ったと言うか…用意しただけ。」

「怪我してないか?」

鍋の用意如きでどれだけ心配されるの?
この歳になって包丁のひとつも、まともに使え無いってホント哀れな女。
まぁ実際、今回も包丁は使わず、キッチンバサミを使ったのだが…

「すぐ帰るから、それ以上何もするなよ!?」

帰るって…
あんたの家とちゃうけど…?

そんな事思いつつも、彼の帰りを楽しみに待ってる自分がいる。

暫くすると、バタバタと足音がし、玄関のドアが勢いよく開いた。

「!?」

「ただいま!」

突然開いたドアと、誠一郎の額を流れる、尋常じゃない汗に、何が有ったのかと目を見開く私。
誠一郎はそんな私を気にすることもなく、抱きしめ、長い長いキスをした。
まるで会えなかった二人の時間を埋めるかの様に…。(会えなかったのは、たった1日だけだが…)

「凄い汗だけど、どうしたの?」

「宣美が心配で、走って来た。」

どんだけよ…?
そこまで心配されて嬉しいやら、悲しいやら…
複雑だわ…

「食事の前にシャワーして来たら?」

「もう少し宣美を味わってから。」

再び誠一郎は、深いキスを繰り返した。

前に『キスして嫌じゃなければ恋人になれる。』って誰かが言ってた。

でも、そんなのは若い時だけの話。
いい歳で、結婚を考えるなら、恋人になれるかどうかより、結婚相手に互いが相応しいか、まずそれが先だと思う。

「…宣美?」

「えっ?何か言った?」

「どうした箸止まってるぞ?さっきから上の空みたいだけど、会社で何か合ったか?」

考え事をしていて、私の箸が止まっている事に誠一郎は心配してくれた様だ。

「ううん。なんでもない。」

「何かあるなら、一人で考え込まず、俺にちゃんと話せよ?」

「あっうん…何でもないから心配しないで?」

小さな仕草も見逃さない、優しい誠一郎だから、私の今考えてる事を、彼に悟られない様に気を付けなくてはいけない。

「ホントに?」

疑いの目を向ける誠一郎。

「お酒が無いと食も進まないみたい。やっぱり少し飲もうか?」

食事を始める際、誠一郎だけでもと、出しかけたお酒を、誠一郎は「俺も禁酒する。」と言ったので、お酒は出してないのだ。

「駄目だ!子供が生まれるまでの辛抱だろ?」

まだ、出来もしてない子供の心配して…





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