限りない愛~甘い彼に心揺れて~
断片的によみがえる思い出の中、確かに大ちゃんはいた。だけど、笑顔が懐かしく感じてもこの副社長と同一人物だとはまだ信じられない。

兄は私よりも順応性がある。


「大祐は今、何しているんだ?」

「サラリーマン」


副社長はサラリと答えるけど、私はすかさず突っ込んだ。


「え、違うでしょ? ただのサラリーマンじゃないですよ。新しくなったうちの会社の副社長さんです」


冷静に自分の職業を言う副社長を否定して、紹介するように彼の身分を話した。

案の定うちの家族は「副社長!?」と揃って、驚きの声を出す。

副社長就任に至るまでの経緯の発端は20年前、彼の身に起こった不幸な出来事だ。

そして、私の母が言う。


「そういえば、大ちゃんのお母さんから聞いたことあったわ。父親は会社を経営していて、お兄さんが跡を継いでいると言っていて、普通の家に嫁いだ自分には関係のないことだと」

「そうか、大祐はその家に引き取られたんだな。それで副社長か。昔から王子様みたいなところはあったけど、本物の王子様じゃないか」


母の昔話に納得した兄は王子様とからかうように笑う。副社長はそれに「やめて」と不機嫌な表情を見せたけど、なんとなく安心した様子。

私も副社長だからと知っても、変わらない家族の対応に安心はしている。
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