蜜月は始まらない
気を遣ってうれしいことを言ってくれるふたりに、私はへらりと笑う。



「そもそも私たち、高校生のときクラスメイトだったの。だから母同士も知り合いで、勝手にお見合いをセッティングされて……」

「へー、なるほど」

「けど今こうして一緒にいるんだから、結果的にはお母さま方グッジョブだねぇ」



かいつまんだ私の説明を聞き、納得した様子でうなずく高野選手とすみれちゃん。

けれどふと、高野選手がにやりとイタズラっ子のような笑みを見せた。



「学生時代同じクラスって、なんか青春ぽくていいよな。華乃さん、実はその頃柊のこと好きだったとか、そういう甘酸っぱいエピソードはないの?」

「え」



思いがけない質問に、ドキリと心臓が大きく弾む。

あ、甘酸っぱいどころか……高野選手の言う通りまさに彼に対して抱いていた恋心を無理やり封印した、苦いエピソードならありますが……!



「あ……えーっと、」



どうしよう。
いくら今ここに錫也くん本人がいないとはいえ、まさかこんなこと馬鹿正直に話すわけにもいかない。

焦りながらもなんとか誤魔化す言葉をひねり出そうとしていた私の後頭部に、ふわりと優しく何かが当たる。



「華乃。そろそろお開きだって」

「あ……錫也くん」



振り返った先にいたのは、立ったままこちらを見下ろす錫也くんだった。

さっき髪に触れたのも、彼の手だったらしい。
タイミングよく現れた錫也くんを見て、無意識にほっと息を吐いた。
< 100 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop