蜜月は始まらない
そしてまさにそのプロポーズを受けた相手、すみれちゃんが自分の旦那さまをきょとんと見上げる。



「え? 錫也くんってお酒あんまり強くないんだ?」

「強くないどころか、かなり弱いな。すーぐ潰れるから楽しい」

「楽しんじゃダメでしょ!」



すみれちゃんの鋭いツッコミにも、久我さんはケラケラ笑っている。こちらもこちらで上機嫌そうだ。

錫也くん、お酒弱かったんだなあ。
視線を戻してみると、彼は立ちっぱなしで私の頭に片手を載せたまま器用にうつらうつらとしていた。

な、なんという無防備さ……。



「これは柊が完全にオチる前に、ささっとタクシー捕まえて帰った方いいかもねー。ここはもともと俺らの奢りのつもりだったし、あとのことは気にしないで」



ニッコリ笑顔の高野選手や他のメンバーにも気遣ってもらい、私たちは一足早くお暇することになった。

ここにたどり着くまでは、いろいろ考えて長く感じたけれど……来てみれば、あっという間の楽しいひとときで。

少しだけ寂しい気持ちになりながらも、あちらこちらからかけられる「また会おう!」の言葉に元気をもらえた。



「今日は、みなさんとお会いできて楽しかったです。また機会がありましたら、ぜひ」

「そうそう! リーグ優勝したら、ご褒美旅行のハワイでも会えるし!」

「うわこわい、すみれちゃんの無邪気にプレッシャーかけてくるスタイル」

「かわいいでしょう? ウチの奥さん」

「久我も酔ってんなー」



そんなこんなで賑やかな声に後押しされながら店を出る間際、こそっと宗選手が私を引き止める。
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