蜜月は始まらない
「また、みんなで飲みましょうって言ってくれたの」

「……ふーん」



納得、したのかな? どことなく、その横顔がちょっと拗ねているようにも見える。

普段の彼より表情豊かに感じるのは、アルコールのせいだろうか。そういえば私たちは、同じ家で暮らしてしばらく経つけれど一緒にお酒を飲んだことが今までなかった。

なんだか、落ち着かない。

私は何かに急かされるように、また口を開く。



「宗さんもだけど、みんないい人で楽しかったなあ。連れて来てくれてありがとう、錫也くん」

「まあ……華乃が楽しめたなら、よかった」



そこでようやくこちらを向いた錫也くんが、ふわりと笑う。

薄暗い車内でも眩く見えるその微笑みに心臓が大きくはねて、顔が熱くなった。

彼に、気づかれてしまうだろうか。
この赤面を、どうかお酒のせいだと思ってくれますように。

心の中で必死に祈りながら、私は笑ってうなずいてみせる。



「それにしても、錫也くんがあんまりお酒得意じゃないって知らなかったな」



さりげなく別の話題を出せば、彼は不本意そうに顔をしかめた。



「すぐ眠くなって、ぼーっとするんだよな……周りの人たちは、俺がやらかすのおもしろいみたいで飲ませようとしてくるけど」

「ふふ。やらかす錫也くん見てみたいなー」



たぶん今の自分も、アルコール効果かいつもより饒舌になってしまっている。

笑い混じりに返す私に、ますます錫也くんは苦い顔をした。
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