蜜月は始まらない
「とっても、うれしいです。大事にするね。こんなに素敵なもの、本当にありがとう柊くん」



心からの感情で笑顔になりながら、お礼を言う。

するとなぜか、一瞬目をみはった柊くんが私を見つめたまま動きを止めてしまう。

どうしたんだろ、と首をかしげたのと同じタイミングで、彼が唇を動かした。



「その、『柊くん』って呼び方」

「ん?」

「俺たち一応、結婚の約束までしてるわけだし。今後名前で呼び合うようにしないか?」

「えっ」



それは、私にとって予想外の申し出だった。

たしかに、いずれ結婚するつもりで同居している男女が互いに苗字で呼んでいるのは、普通に考えたら不自然……なのかも。

けれど私が、柊くんのことを名前で?

そ、それはなんというか……高校生の頃からの呼び方を急に変えるのって、無性に恥ずかしいな。相手が相手だけに……。



「今度からは『華乃』って呼ぶから。俺のことも『錫也』でいい」



対する柊くんはといえば、あっさりとそんなことを言ってくる。

不意打ちで自分の名前を呼ばれ、バクンと心臓が一際大きく飛び跳ねた。

どうやらこの提案は、彼の中でもはや決定事項のようだ。
恥ずかしい、なんて理由じゃ逃がしてくれそうもない。



「えーっと……」



……受け入れるしかない、かあ。

覚悟を決めて、こくりと唾を飲み込む。
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