蜜月は始まらない
こちらの返事を待っている彼を、おずおずと見上げた。



「すっ……すず、やくん?」

「錫也」

「……すずやくん」

「錫也」

「すみません、いきなり呼び捨てはハードル高いのでくん付けでお願いします……」



たぶんこのままでは延々ループだ。淡々とゴリ押ししてくる柊くんへ、情けなくも正直に白旗を挙げた。

美形に真顔でじっと見つめられると、本人にそんな気がなくとも威圧感がすごい。
というかこれ、そんなに拘るところだろうか……?



「……元カレは?」



なぜだか若干不機嫌そうに眉を寄せた柊くんが、不意にポツリとつぶやく。

またも、予測不能の変化球だ。
突拍子のないワードに驚いて、私は固まった。



「前の彼氏のことは、名前を呼び捨てにしていたんじゃないのか?」



先ほどの短い質問を、柊くんはさらに詳しく言い直す。

えぇ……なぜここで、元カレの話?
今、しちゃうの?

私はたじろぎつつも、ひとまず素直に答える。



「えっと、前にお付き合いしてたカレは元々職場の人だったし年上だったから、なんとなくずっと苗字にさん付けしてて……」

「……ふぅん。なら、いいか」



こちらの言葉を聞き、どこか少し溜飲が下がった顔をして柊くんがうなずく。

なんですか、その謎の対抗心みたいなやつ。

男同士だと、なんかいろいろあるのだろうか。
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