蜜月は始まらない
「じゃあ……一応、くん付けってことで……?」

「ああ。わかった、華乃」



おずおず再確認すれば、柊くん──もとい錫也くんはうなずき、おまけにさらりと私の名前を呼んでみせた。

うう、顔が熱い……心臓、うるさい……。

そのうち、慣れるのかなあ。
それまで彼に名前を呼ばれるたびこんな調子じゃ、身体がもたないです。



「あ、あの、そろそろ、お風呂入ったら……?」



気を取り直すように、思いついたことを言ってみる。

錫也くんは壁にかけてある時計に目を向け、「そうだな」とうなずいた。



「俺、先でいいのか?」

「どうぞどうぞ! 家主さまがお入りください!」

「……今日からは、おまえの家でもあるからな」



私のセリフが引っかかったらしく、釘を刺すように細めた目を向けられた。

いや、まあたしかにそうですが。私の中には“いつかはここを出ていくことになる”という思いがあるため、無意識に1歩引いた言い回しをしてしまうのだ。

きっと、これは直らないだろうなあ……。

そう確信めいたことを考えつつ、私は曖昧に笑ってみせた。
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