蜜月は始まらない
ベタ惚れ……? 私、そんなふうに見えちゃうの?

それは、マズい。根本さん相手にはともかく……もし、錫也くんにもそう見えてしまったら。

だって彼が欲していたのは、自分に恋愛感情を向けるような女じゃない。
ただ、望まない紹介話や縁談の盾にできて、なおかつ自分の生活を補助してくれる人材。

そして私自身も、恋愛をする気はないけれど親を安心させてあげたいという大義名分を掲げ、彼と手を組んだのだ。

利害の一致の関係。言い方は悪いけれど、私たちはお互いを利用し合っている。

なのに、私が錫也くんにベタ惚れしているように感じられたりしたら……彼にしてみれば、迷惑以外の何ものでもないだろう。

そもそも私、錫也くんのことが好きなの?

人として好きなのは当然だ。けど、恋愛としては?

同居生活を始めてから、やはり彼は昔のまま、優しくて素敵な男性なのだと改めて感じた。

錫也くんといるとドキドキしてしまうのは、恋をしてしまっているから?

でもそんなの、あまりにも私ちょろすぎる。初恋の人と一緒に住み始めて、またすぐにその相手を好きになってしまうなんて。

とにかく、万が一私が彼に特別な感情を向けてしまっていたとしても、それを認めるわけにはいかない。

今の関係のバランスを崩すようなことは、絶対にしちゃいけない。

ドキドキするのは、錫也くんがかっこいいから。あんなにイケメンで優しい人を前にしたら、ほとんどの女性はドキドキしてしまうはず。

だから、私のこれは……恋なんかじゃ、ない。

そうやって自分に言い聞かせるようにしながら、私はお弁当の残りを口に押し込んでいくのだった。
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