蜜月は始まらない
「ああそうだ、華乃に頼みがあるんだ」



その日の夕飯中。彼が改まって発したセリフに、私は思わず首をかしげた。



「頼み? なあに?」

「かなり申し訳なくて心苦しいんだけど。近いうち、俺の先輩たちに会ってもらえないか? 一緒に住んでる話してから、華乃に会わせろってうるさくて」



そう話す錫也くんは、なんだかどことなく不本意そうな顔をしている。

いくつかの疑問を浮かべて、私は目をぱちくりとまたたいた。



「えっと、先輩っていうと……」

「俺と同じ、東都ウィングスのチームメイト」



ですよね。錫也くんと同じ、プロ野球選手だよね。

若干おののきながら、私はまた口を開く。



「それがどうして、『かなり申し訳ない』の?」



とりあえず先に、気になった言い回しについて尋ねてみた。

彼はますます渋い顔をして肉じゃがを口に放り込む。



「……結構、騒がしい人たちで。華乃を疲れさせるかもしれない」



どうやら日頃彼は、その“騒がしい先輩たち”にかなり揉まれているらしい。

気が進まなさそうな表情だったのは、私を心配してのものだったんだ。

その気遣いがうれしくて、つい頬が緩む。



「ううん、大丈夫だよ。錫也くんの先輩だなんて、ちょっと、緊張はするけど……」



そこではっきりと、私は彼に笑顔をみせた。



「紹介してもらえるの、うれしい。ありがとう錫也くん」



一瞬、彼が目を見開く。

けれどすぐに、ホッとしたような笑みを浮かべた。
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