蜜月は始まらない
「だって、テレビで観る人ばっかり来てくれてるんでしょう? 大丈夫な方がすごいよ……」

「別に、そんな身構えなきゃいけないような人たちでもないけど」

「それは~~! 錫也くんもソッチ側の人だから~~!!」



そんなことを話しているうち、タクシーが目的地に到着する。

代金を支払ってくれた錫也くんに続いて後部座席を降りた私は、ドキドキしながら目の前のお店を見上げた。

濃い紫色の暖簾に、白文字で【むつみ屋】と書いてある。

特に高級そうにも見えない、いたって普通の居酒屋に思えた。

ここに、有名なプロ野球選手たちが……!



「中入るぞ」

「え?! ま、待って……っ」



怖気付く私なんてお構いなしで、錫也くんがあっさりと引き戸を滑らせる。



「いらっしゃいませー!!」



とたん、中から威勢のいい男性の声が耳に届いた。

慣れた様子で店内へと足を踏み入れる彼のあとを、おそるおそるついて行く。



「おーっ! 来た来たスズくん!!」

「待ってたよ今夜の主役~!!」



今日この店は、東都ウィングスの関係者で貸切らしい。

小上がりのテーブルにはすでに5名ほどの先客がいて、錫也くんと私の姿に気づくなり陽気に声をかけてきた。



「すみません、ギリギリになって──って、もう飲んでるじゃないですか」



呆れたように話す錫也くんに、彼のチームメイトたちは「待ちきれなくて~」なんて口々に返しながら笑っている。
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