蜜月は始まらない
「華乃はここ」



驚いて振り返れば、思いのほか近い距離に錫也くんがいた。

とっさのことに固まる私の肩を押し、されるがまますとんと座らせられる。

そして私と宗選手の間にある座布団には、錫也くんが腰を下ろした。

あまりの早業に、つい呆然とする私。

するとそこで、宗選手が噴き出す。



「スズくん、どんだけ過保護だよ! というか、独占欲強すぎ!」



一連の流れを見ていた周りの人たちも、口々に錫也くんをからかう言葉を発して笑っていた。

言われ放題の錫也くんは、眉を寄せて渋い顔をしている。

私は訳がわからなくて、首をかしげながらそんな彼をちらりとうかがった。



「あの……錫也くん?」

「……華乃。この人たちが何か言ってきても、9割方は聞き流して大丈夫だから」

「う、うん……?」

「9割て!! ほぼ全部じゃんか!!」

「普段あなたたちがロッカールームで話してることを鑑みて出した数字です。不本意ならもっと割り引けるようにがんばってください」



ここにいるのはほとんどが先輩だろうに、錫也くんは臆面もなくいつものクールな顔で言い放つ。

きっとこの人たちは、いつもこんな感じで賑やかにじゃれ合っているのだろう。

……うれしい、な。
今まで知ることがなかった、チームメイトたちといるときの錫也くんを、こうやって実際に見ることができて。

錫也くんのセリフにわき起こったブーイングや笑い声を聞きながら、私はつい顔をほころばせた。
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