デキる女を脱ぎ捨てさせて
「私は崇仁さんだから好きなんです。
 社長の息子だとかは関係ありません。」

「うん。ありがとう。
 何も持っていない俺でいいの?」

 私の方にもう一度顔を向けた彼は心許ない顔つきで言った。

『倉林』に振り回されて、それでも『倉林』を生きてきた彼。
 恩恵も少なからず感じている彼だからこそ色々な思いが交錯するのだろう。

 私は声に力を込めて言った。

「そう言ってるじゃないですか。」

「ただの何も持っていない俺と一緒にいてくれるって言うのなら結婚しないか?」

「え……話が飛躍し過ぎて。」

 息を飲んで崇仁さんを見つめても彼は微笑んで言葉を重ねた。

「何も持っていない俺じゃダメ?」

 切ない声色に私は首を振った。

「ダメって……。」

 だって、そんな……。
 私は信じられなくて言葉を強めた。

「そもそも何も持ってなくないですよね?」

「ん?何が?」

「倉林の家を出たら美しい顔が崩れます?」

 彼にとって思いもよらない言葉だったようで面食らったような顔をした。

「は?いや……というか俺って外見だけ?」

 苦笑する崇仁さんに言葉を重ねた。

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