World End 〜七情の泉〜
腕組みするローゼンバーグに難しい顔を崩さないカプアーノ。そんな二人を見ながら、翼の胸の中は大きく不安が広がっていた。


わざわざ化け物がいるところへ行くのか…と今更ながら自覚した。護衛がいるとはいえ恐ろしいことに変わりはない。それにあれは人だったとガイアに聞いたせいか、殺してしまうことに抵抗があった。



「殺すしか…方法はないんですよね……」

「お恥ずかしながら、手加減をする余裕が無いのです。 私は騎士団をまとめる身。 すなわち、皆の命を守る責任もある立場です。 争い事、命のやり取りに縁遠い生活を送っていたツバサ様にはとても酷な事だとは思いますが、どうかご理解頂きたい」



ローゼンバーグの真っ直ぐな瞳を見ていられず、翼は目を伏せた。膝の横に置いた手は椅子を掴み、力が困る。



「ツバサ様」



ソンジュのか細い手が翼の肩にそっと触れた。指先の冷たさが布越しに伝わる。



「穢れを受けた人や動物たちを殺める事でしか救うことが出来ませんでした。 ですがツバサ様がこの世界へ来て下さった事で、わたくしたちは本当の救いを得ることができたのです」

「……本当の救い?」

「ツバサ様だけが穢れを払い、皆を元の姿へ戻すことができるのです。 安易な事ではございませぬ。 それでもこのまま終わりを迎えるよりも悲しみは減るでしょう。 皆に笑顔が戻る事でしょう。 ツバサ様の心の苦しみが少しでも和らぐよう、わたくしたちは尽力致します。 どうぞ、お心を押し殺すのではなくぶつけて下さいませ」



何故命をかけてまで救おうと思えるのか……平和に暮らしてきた翼には未だ理解できなかった。世界が滅びると言われたら、自分は一体どうしただろうか…みんなと一緒に諦めたかもしれない……翼はそう思った。


気持ちの整理はつかないものの、それでもこれ程までに一生懸命な姿を見ると、受け止めたいと思ってしまう。




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