World End 〜七情の泉〜
2つ上の姉が陸上部で短距離走の選手だった翼は、姉に憧れ中学に上がると迷わず陸上部に入部した。種目はもちろん大好きな姉と同じ短距離走だ。生まれつきわりと運動神経の良かった翼は、短距離走との相性がよく、みるみるうちに成績を伸ばしていった。名前の通りまるで翼が生えているかの様に身軽で、風の様に走り抜け中学2年になってからは敵なしだった。


周りに期待されていた翼には色んな学校からスポーツ特待生の話がきていた。だがどれも断り、普通に受験し、公立高校に入った翼は綺麗さっぱり陸上の世界から足を洗った。プレッシャーに耐えきれなかったからでも飽きたからでもない。陸上の成績が良くなればなるほど、姉との関係にヒビが入ってしまったからだ。翼にとって陸上とは、大好きな姉と共有できるもので、もっと仲良くなる為の手段の一つでしかなかった。


陸上を始めて後悔していた翼だが、逃げ回っている今、やっていて良かったと心の底から思っていた。


_それにしても……。



「さっ_ぶえっくしょん!!!!」



大きな門を潜り、その先の森に迷い込んだ翼の酷いクシャミの声が響き渡った。


漸く立ち止まった翼は荒い呼吸で激しく肩を上下させながら、両手で自分を抱きしめ器用に震えている。





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