World End 〜七情の泉〜
「総長! ご無事ですか!?」



翼を抱える男の元へ、同じく鎧を纏った男が駆け寄ってきた。その男は翼の格好を見て目を泳がせた。



「あぁ、私は問題ないが救世主さまが怪我をなさっている。 急いで城に戻るぞ」

「ハッ!!」



駆けてきた男は背筋を伸ばし敬礼すると、踵を返してまた走って行った。



「馬車の中に防寒具をご用意しております。 寒いでしょうが、もう暫く我慢なさって下さい」

「…………」



つい先程まで熊の化け物に追い回され、死を覚悟したというのに、既に翼の心は直ぐ目の前にある男の整った顔に奪われている。男は日本人である翼よりも彫りが深く、ハッキリとした顔立ちをしている。



「救世主さま、どうかなさいましたか?」



無言のままじーっと見られている男は翼に尋ねた。



「あの……救世主さまって何ですか?」



「貴方の顔に見惚れていました」とは流石に言えず、代わりに疑問に思った事を口にした。すると男は一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐに元の顔へと戻った。



「私の口からお話するよりも巫女さまからお話頂いた方が良いかと存じます。 お話よりもまずは冷え切ったお体を温めましょう」

「…………」



短時間でどっと疲れた翼は何も言わず男の胸に頭を預けた。歩くたびに頭が揺れ、冷たく硬い鎧が撫でてくれているようだった。


森から出ると馬車を囲むように数頭の馬が並び、鎧を見に纏った男たちがその馬にまたがっていた。


馬車に乗せられた翼は直ぐさまガウンを着せられ、更に毛布に包まれた。揺れる馬車の中に一人きり。温まった体、そして肌触りのいい毛布に頬を撫でられ、睡魔に襲われる。


_明日海行くのに何の準備もしてない。 起きたら水着出して…着替えと…日焼け止…め__。


そんな事を考えながら翼は吸い込まれるように眠りについた。





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