おはようからおやすみを笑顔で。
「とにかく、あいつはお前に適当なこと吹き込んで、俺たちを別れさせる気だったってことだ」

なんてことない様子で斉野くんはそう言うけれど。


「そんな人には見えなかったけどなぁ。初めて会った時も、斉野くんに凄く懐いているように見えたけど」

「人をうわべだけで判断するな。大体、出世狙いは俺じゃなくてあいつの方。だから、自分が狙ってる地位を先にどんどん奪っていく俺のことを内心快く思ってないんだろ。俺がいたら、自分はその地位に就きにくいからな」


なるほど……そういうことだったんだ。
あの人懐っこそうな笑顔の白井さんがそんな腹黒い人だったとは……人は見かけによらないな、と思った。



「とにかく、あいつの言うことは信用するな。というか、今度あいつと偶然会ったら、その場ですぐに帰れ」

「じゃあ、斉野くんは……」

「ん? 俺がなに?」

「斉野くんは……いつか本当に赤ちゃん出来たら、喜んでくれる?」


そう質問しながら、ドキドキしつつ彼を見つめると、一瞬だけきょとんとした顔を見せた彼は次の瞬間にフッと柔らかく笑った。


「当然だろ。嬉しすぎて倒れちまうかもな」


彼に似合わない、かわいい冗談。だけど今はそれが、なによりも嬉しい。


「沙耶、黙り込んでどうかしたーーわっ」

近付いて、私の顔を覗き込んできた斉野くんに、ギュッと抱きついた。
< 108 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop