おはようからおやすみを笑顔で。
「私ね、ピンク大好きなの! 私の好きな色、よくわかったね⁉︎」

興奮気味にそう伝えるけれど、彼は〝当然だろ〟と言わんばかりのすまし顔。


「そりゃあ、わかるだろ」

「えー、なんで? 普段の持ち物とかはそんなにピンク多くないんだけど」

「まあ、わかるっていうか、覚えてたっていう方が近いか」

「覚えてた?」

「昔のお前は、持ち物ピンクだらけだった」

そう言われて、確かにそうだったと昔の自分を思い出す。いつしか、あまりにピンクだらけだと子供っぽく見えてしまうと思い、身の回りのピンクの量を減らしたけれど、小学生時代は確かにピンクのものばかりを持ち歩いていた。


自分さえ忘れかけていたそんな昔のことさえ
、斉野くんは覚えていてくれたんだなあ……。


とくんとくん、と、なんだか心臓が落ち着かない。頬も熱い。



「沙耶」

不意に名前を呼ばれて顔を上げると、彼が真っ直ぐな眼差しで私を見つめ、やさしく笑う。


「部屋、予約してあるんだ」

シンプルな言葉だけれど、私の心臓を締め付けて更に動揺させるには充分過ぎた。


部屋へ向かうエレベーターの中でも、緊張してしまって落ち着かない。
でも、それはきっと私だけ。
斉野くんの横顔を盗み見れば、予想通り、いつも通りのクールな表情。
ピンクが好きなところとか、そそっかしくて騙されやすいところとか、態度が顔に出やすいところとか……なんだか、私だけが小学生の時からなにも変わってないみたいで恥ずかしい。


チン、という音と共にエレベーターの扉が開く。
彼に先導されるように赤い絨毯の廊下を歩いていく。
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