おはようからおやすみを笑顔で。
鋭い瞳で神代くんを睨みつけているように……見えなくもないのだけれど、気のせい?


「いやいや。斉野はカラオケ行けよ。皆待ってるぞ」

神代くんは笑顔でそう返すけれど、彼も彼で、言い方に少し棘があるように感じた。


なに、この状況?


彼らの間に挟まれて動揺していると、次に口を開いたのはなんと凛花ちゃんだった。


「祐! どういうことよ!」

少し離れた場所にいたはずの彼女は、詰め寄るように長い足でつかつかと歩いてくる。
そして、斉野くんの正面に立った彼女は、殴りかかるんじゃないかと思うくらいの勢いで斉野くんにつっかかる。


「ねえ、なんで⁉︎ なんで沙耶を送ってくの⁉︎ 私を送って行ってよ!」


かなり怒っている様子に見えるのだけれど、一方、泣きそうになっているようにも見えた。


凛花ちゃんは……斉野くんのことが本当に好きなんだ。


一方斉野くんは、表情ひとつ崩すことなく、凛花ちゃんに淡々と言葉を返していく。


「俺は沙耶を送っていきたいから送っていく。それだけだ」

真っ直ぐな斉野くんの言葉に、思わずじんと感動してしまいそうになる。しかし一方で、凛花ちゃんがわなわなと震えだす。


「意味わかんない……。まだ沙耶のことが好きなの? さっきまで、そんなこと一言も言ってなかったじゃない」


怒りで震えているのかと思ったけれど、その声色は、悲しさを含んでいるように聞こえた。

だけど斉野くんは、どこまでも冷静で。


「沙耶本人が、俺とのことを隠したがってるみたいだったから言わなかっただけだ。だけど、はっきり言わなきゃ誤解され続けそうだし、変な虫もつきそうだしな」

変な虫、と言いながら彼は神代くんの方をちらっと見た。
斉野くんの鋭い視線に射抜かれたのか、仲の良いはずの神代くんですら、身体をびくっと震わせた。
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