おはようからおやすみを笑顔で。
「む、虫って、嫌だな〜。俺は、自分が帰るついでに木本のこど送っていこうとしただけだって」

「お前の家、逆方面だろ」

「ははは! そうだったかも。ていうかもうさ、みんなでカラオケ行っちゃわない⁉︎ それがいい!」


よくわからないけれど神代くんが突然そう提案してきて、私は驚きつつも、ピリピリしたこの雰囲気が和やかになるかもと思った……のだけれど。


「もういい! 私、帰る!」


凛花ちゃんが泣きそうな顔をして、その場から走り去っていく。

だけどその方向は、駅ではなかった。


「おい、凛花! そっちは……!」


斉野くんが声を掛けるけれど、凛花ちゃんは止まらない。
彼女の姿は人混みに紛れてあっという間に見えなくなってしまったけれど、凛花ちゃんが走っていった方向はホテル街だ。


「ねぇ、ヤバいんじゃない? よからぬこと考えてはやまったりしないよね?」

マイちゃんが心配そうな声を出すけれど、私も同じことを考えた。おそらく神代くんも、そして斉野くんも。


だけど「祐、追い掛けた方が良くないか?」という神代くんの問い掛けに対し、斉野くんは明らかに凛花ちゃんを気に掛けた様子を見せながらも、私の方をちらりと見やる。


「斉野くん、行ってあげて!」

私がそう言うと、彼は少し驚いたような顔を見せる。


「女性が一人であんな通りに出て行ったら危ないでしょ! 斉野くん警察官なんだから、というか男性なんだから、ちゃんと追い掛けてあげて!」

「いや、でも……」

「でもじゃない!」

斉野くんだって、ホテル街へ走り去ってしまった凛花ちゃんのことが気になっているはず。そんなことはわかってる。

だから。


「私、待ってるから!」

「え?」

「家で待ってるから、後で来て!」
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