おはようからおやすみを笑顔で。
「えっと……」

「うん……」

なにから話していいかわからなくて戸惑っていたのだけれど、どうやらそれは斉野くんも同じようだった。
斉野くんのこんな様子、珍しいななんて思っていると。


「……とりあえず、抱き締めてもいいか?」

「え? ひゃっ」

質問しておきながら私の答えなんてお構いなしに、彼は私のことを正面からギュッと抱き締める。


「さ、斉野くん。どうしたの?」

「……緊急事態だったとはいえ、好きな子を放置して他の女を追い掛けてしまったから、誤解されたくなくて」


クールな斉野くんからの、わかりやすい愛情。
彼はいつもこうやって愛の言葉をくれるけれど、何度伝えられても恥ずかしいし緊張する。こんな風に抱き締められながらだと、尚更だ。


「ご、誤解してないよ。大丈夫!」

「ほんと?」

「ほんと、ほんと!」


だから、今は早く離してほしい。
だってそうしないと、心臓のドキドキが伝わりすぎて恥ずかしい。


すると彼はゆっくりと私の身体から離れる。

……お互いに目を合わせた彼の顔は、少し気まずそうな顔をしていて不思議に思う。

「斉野くん? どうかした?」

「……なにから話せばいい?」

「え?」

話す、というのは凛花ちゃんとのことだろうか。
逆に、私の方こそ〝どこまで聞いていいんだろう?〟と思ってしまい、口ごもってしまう。
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