戦乱恋譚

がくん、とうなだれる私。

…最悪だ。彼氏に振られ、職を失い、ただでさえボロボロなのに、どうして知らない世界に飛ばされてまで殺されかけなきゃいけないんだ。

…と、その時。青年がすっ、と私に近づいた。思わず、びくっ、と震えて構えると、彼はまるで慣れない獣を懐かせようとするかのように私に声をかける。


「…先程は野蛮な真似をして申し訳ありませんでした。俺は当主ゆえ、敵が多いんです。貴方のことも、敵である月派の隠密と勘違いしていました。」


穏やかな彼の声に、警戒心が薄れる。そんな態度で私の心中を察したのか、彼は、ふわり、と微笑んだ。


「貴方の名前は?」


「…藤堂 華(とうどう はな)です。」


「華さん、ですか。可愛らしい名前ですね。」


先程までの殺気を纏った彼はどこへ行ったのだろうか。月明かりに照らされる優しげな表情に、不意に心臓が高鳴った瞬間、私はぎこちなく尋ねる。


「えっと…城が燃えているのは、…“月派”っていう派閥との戦いのせいなんですか…?」


「…はい。この城は、先代当主の時代に廃城となった陽派の城なのですが、ここに“顕現録(けんげんろく)”が隠されていると噂が立ちまして。それを聞きつけた両家が手に入れようと乗り込んできて、全面衝突したんです。」


「“顕現録”?」

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