戦乱恋譚
…ぐいっ。
突然、綾人が、伊織の腕を掴んだ。ひどく真剣な瞳は、先程までの彼とは違う。
「綾人…?」
…と、次の瞬間。綾人は伊織を睨んだまま、低く言った。
「何をしている、“佐助”。」
(え…っ?!)
ぴくり、と“伊織”が震えた。状況がつかめない私をよそに、綾人は冷たい口調で言い放つ。
「お前…伊織ではないだろう。華を騙すなんて、恩を仇で返す気か…!」
「!」
その時、ボン!と伊織の姿が変わった。現れたのは、忍び装束の少年。主に正体を見破られ、顔を俯かせる佐助。
綾人は、本当に知らなかったらしい。
彼も動揺しているようで、険しい顔のまま言葉を続けた。
「…どうしたんだ佐助、騙し討ちなんてお前らしくない。汚いやり方は月派の恥だ。こんなことで顕現録を手に入れても、俺は少しも嬉しくないぞ。」
『…!』
「さ、顕現録を華に返すんだ。」
ザァァ…
雨が、一層激しくなってきた。
すると、佐助は俯いたまま、ぽつり、と呟く。雨音に消されそうなほど小さなその声は、確かに私の耳に届いた。
『…綾人さまのためなら…、ぼくは、何だってします…』
「…!」
(…どういうこと…?)
それを聞いた綾人が眉を寄せた
その時だった。