戦乱恋譚


ブワッ!


突然、激しい突風が辺りを吹き抜けた。予想だにしていなかった風に、傘が吹き飛ばされる。

すると、手から離れた傘に気を取られた一瞬の間に、佐助の背後に漆黒の羽織の男が現れた。

目を見開いた瞬間、危険を察した綾人が私を抱き抱える。


ザン!!


鞘から抜かれ、勢いよく振り下ろされた男の刀。

綾人の助けにより、間一髪でその斬撃から逃れた私は、男の顔を見てどくん!と心臓が鈍く音を立てた。


「…本条、宗一郎…!!」


それは、紛れもなく月派の先代当主。彼の手には佐助から奪い取った顕現録がある。思惑通り、といった彼の不敵な笑みに、ぞくり、と震えた。


(!…まさか、全てあの男が仕組んだ罠だったの…?!)


一気に血の気が引いた。ことの重大さに、体の力が抜けていく。


“顕現録を何としてでも守らなければ、折り神たちが捨て駒のように先代に利用されてしまいます。”


伊織の声が頭に響く。月派先代当主の歪んだ人格を、私はこの目で見てきた。顕現録が敵の手に渡ったらどうなるか、殺されかけた私が一番よく分かっていたはずなのに。


(…まさか、伊織に化けて奪われるなんて…!)


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